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大野直子 VS 桝野正博                                                                                                      離反と融合をくりかえす、一枚の詩と、一篇の詩。
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 大野直子さんにお願いして、p o e t は無期限のお休みに入りました。詩と写真とでなにか面白いことができないかとぼくから持ちかけておきながらまったく自分勝手なやつですが、写真を始めて30年、今頃になってほんとうの写真を撮りたいなと思うようになりました。ほんとうの写真、そんなものがあるのでしょうか。なにもかもから離れて、あるのかないのか、見極めるのも楽しそうです。人生の残りの持ち時間をそれに当てたいと思います。(桝野正博)










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         孤 独


     わたしの中のケモノよ
     わたしはどうやってオマエと生きよう
     なにをご馳走してオマエを満足させよう

     昨日は
     詩を頬ばったね
     今日は
     夕日入りのスープを飲んだね
     明日は
     闇なんか茹でて ぎゅうっとしぼって
     おひたしにでもしようか

     わがままなケモノよ
     けっしてわたしに飼い慣らされるな
     はげしさを失うな
     さびしがりやのオマエよ
     いつまでも迷路みたいな左脳に隠れていなさい
     どんなにわたしがからまわりしても
     冷たい指を持ちつづけなさい
     そして時には
     ぶわりと唇をたわませて
     世界を飲み込んでしまいなさい

     光さえ届かない湖で
     水浴びをしているケモノよ



















         肉 声


     苦悩ぶったことばなんかいらない
     たましいの声もいらない
     聴きたいのは
     ひと切れの肉声なんだ

       ケーン
       ケーン
       伐採がすすむ防風林で
       キジが断末魔のような声をあげる
       一番星とキジの鳴き声が
       夜の入り口の空に氷る

     安穏な人生でも叫びたいんだよ
     つぶやきでもいいんだ
     みぞおちのあたりが
     たしかにすこし痛むんだよ

        ケーン
        ケーン
        ブルドーザーで
        離れ離れにされてしまったキジの親子が
        工場用地をはさんで存在を確かめ合う

          かあさんが死んだとき
          わたしはほんとうの一人になりました
          はじめて世界に産み落とされました

     蒼い防風林を歩く
     ケーン と
     喉をしぼってみる







         沈 黙


      風が鳴る四月
     雑木林ははじめて自分の最期に気づいた
     吸わない音 除けない砂
     トビたちが止まるむきだしの枝先
     てんでんばらばらの方向に傾く木立

     サーファーたちがいくらうねっても
     砂浜に現れたショッピングモールが真夜中を照らしても
     陽光が降り注いでも
     ニセアカシアは芽吹かない

     ニセアカシアの寿命はおよそ五十年
     内灘闘争が終わって五十一年

       あたしったら
       死にかけているのね

     だが おまえの死に暗さはない
     試射場ドームに描かれていた淫靡な落書きもない
     すえた臭いもない
     去勢されたようなショッピングモールは浜を背にして建ち
     荒波をけっして見ようとしない
     砲弾が行き交ったこともある細長い海岸線には
     ただ春が透けているだけだ

     奥行のないまちが
     骸骨のような林に抱かれている



















         しるし        


     目尻からしみ出した湖で
     月が泳ぐ
     みなもがよれて
     波ごとに月がある
     無数の月が泳いでいる

        戻っておいで
        戻っておいで
        細胞分裂した月たち

     やけくそぐらい起こさなくっちゃ
     しゃっくりが出るくらい泣かなくちゃ
     いい子ぶって澄ましていたら
     タンポポが凍る
     電球が震えて割れる

     息をしていることを確かめるために
     深夜 わたしは
     ハサミでことばを切り刻む
     エンピツの芯砕いて刻む



















         は る


     うす桃色の花が咲いた真昼
     コンクリートの家はやさしくなった

     ため息をぜんぶ春風に吸わせた
     水道管がぬるんで
     排水溝が歌う
     ベランダのふとんが太る
     アンテナが輝く
     アパートはほんのりうすべに

     学校帰りのこどもは
     あたたかいドアノブを握る



















       捜 索


     くちびるが遁走したまま帰ってこない
     口が消えて以来
     なにも話せないでいる

     歩いていたら
     やわらかいものに跳ねかえされた
     あ、この感触 わたしのくちびる
     と思ったら
     梅のかおりのかたまりだった
     春は
     沈丁花
     もくれん
     桜
     匂いのゴム風船が
     ぶわり ぶわり 浮いている

     ひとつ覚えの非難のくちびる
     どうせ
     ラッパ水仙にでも当てられて
     春の精気が湧きあがってくる
     ツクシの土手あたりで
     ひっくりかえっているんだろう

















     背 中


     八十を超えた母のひとり言は
     「おかあちゃん」
     だった
     よぼよぼのおばあさんが
     三十二で逝った若いおかあさんに
     誰もいないところで
     そっと甘えていたのだ
     そんな母に
     五十を超えたむすめが
     今も甘えている
     弱々しい背中に負ぶわれている
     小さな哀しみが醤油ジミみたいに
     ポチンとある日
     むしょうに
     母の背中で揺られたくなる





















      みさき


     まぶたを薔薇色に腫らせて
     ぼくを見て
     と おまえが言う
     空と海をかきまぜる地球
     見つめられたかったわたしが
     おまえを見つめている
     両手をひろげて包みこんでいるわたしが
     おまえに包まれている


















     

      実験室
       ~金澤 攝ピアノコンサート「マルモンテル」~


     そりかえる指が
     闇を差しだす
     衆目の孤独
     ピアニストのまぶたが怖い
     ペダルに断ち切られる響きが突き落とす
     わたしをひとりにする
     音が聞く
     おまえはバカになれるかい?
     音に聞きかえす
     わたしのたましいに触れられる?
     地下ホールにさらけだされた
     飢えた音と飢えたむくろ
     ふたつは
     超えうるか
     熱を帯びる空調
     ふぞろいな椅子の列
     音がこわばる
     音がにごる
     音がにじむ
     闇を受けとる

















・・・・・・・・

 

   



      雑 草


    降ってくるのは
    生の燦めきでもなく
    死後に訪れるしずけさでもなく
    詩が生まれるときの
    細胞がぶるぶる震えだすような振動

    痒み
    いらだち
    痛み

    逃げてはならない
    逸らしてはならない

    生ゴミの混沌から芽生え
    真夜中の冷蔵庫の絶叫でよみがえる
    昿野

    ぎらつく太陽をのみこめ









      誇 り


    わたしがまだ
    いっぽんの雑草だったころ
    からだのすみずみまで
    朝陽をそそがせた
    ツメで空をぴぃんと割った
    そろそろ瞬いてもいいわよと
    星に許した

    あのころのわたし
    いったいどこへ
    いっちゃったのかな

























      


    気がつくと
    四十六億年の片鱗を宿した眼が
    わたしをじっと視ていた

    そのまなざしは
    やさしさとか慈愛とかいうことを超えた
    ただひたすらまっすぐな視線
    わたしの濁った血液まで見透かしてしまいそうな凝視に
    たじろいだ

    わたしは十本の足指をくさびにして立ち
    たった五十年の
    屈折だらけの視線を送り返してやった























     回 帰


   足跡から潜り込んで
   自分の内側に立つ

   脱色された草々が波頭みたいにうねり
   ススキがぶっきらぼうに立ち枯れている
   くさはら

   そこでは
   わたしの皮膚が発散する
   ふんぷんとした甘さが
   鼻を突く

   削ぎ落とせ
   削ぎ落とせ

   がんじがらめの思考も
   常識も
   従順さも

   わたしは身のうち深く佇つ
   一本のはだか木になるのだ


























      ブランコ


    弧のいちばん高いところに
    忘れ物をしてきたままだ
    あのころ
    空は墜ちるためにあった
    地平線が右に左にかしいだ
    時間が止まった

      オマエは
      引き戻されるときの
      あの快感を
      忘れてしまったのかい

    おとなになるとは
    三半規管を眠らせることだろうか
    生活とは
    コップの水をこぼさぬように歩くことだろうか

    でもわたしは気づいている
    耳の奥ではまだ
    鎖がきしんでいることを
    たわむ軌道も
    鉄の臭いも
    ちゃんと覚えている

      ブーンと放ってよ
      ブーンとからだごと

    空がひらく




















      湖 底     



    行き場のない思いが
    わたしの裂け目に湖をつくる
    藻が
    神経のようにふるえている湖だ
    複雑に気持ちが屈折して
    透明度はない
    ユズリハの影
    ことばになるまでの時間
    みにくい泥
    無音
    が沈殿している

    ときどき石を投げ込んでは
    深さを聴く






















      孵 化(ふか)



    おなかの底に
    たまごを一つ孕んでいる
    日に日にわたしを占領していくたまご

    褒められるとギラギラてかる
    父にいじわるを言うと冷たさを増す
    ほんとうの苦悩も知らないくせに頑なになる

    膨張しつづける体積
    あいまいになっていく輪郭

     産み落とす日は
     いつだろう

    きょうも体重計に乗って
    たまごの重量を測る




















        





      忘 却

               大野 直子

 
      気がついたら
      空を歩いていた

      月は
      鳥を飲み込む
      洗濯物を吸い上げる
      峰々をも吸引する
      散歩の途中
      月が
      わたしの臓物ふかくに巣くっている
      鉛のように重たい記憶を
      ぜんぶ吸い取ってくれたのだ

      月の唇が
      わなないている

      からだまで食べられぬよう
      すこし低空を歩く












      



        


     あなたの声を飲み込む
     声がわたしの暗い気道を降りていき
     赤い肉体に沈む

     テレビを消す
     スーパーを出る
     焦燥からはなれる

     静寂こそが幸せであると知ったとき
     ほほえみながら
     孤独がやって来る

     手のなまあたたかさも忘れて
     雪とナイロンがこすれあう音に
     耳をそばだてている










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